この記事の対象:特定技能外国人を雇う受入れ企業の人事・労務担当者、苦情や相談の受付を担う登録支援機関の担当者
労働基準監督署への申告を理由にした解雇などの禁止:3つの法律
労働基準法・労働安全衛生法・賃確法は、いずれも労働者が監督機関へ申告できると定め、そのことを理由にした解雇その他の不利益な取扱いを禁止しています。
労働基準法第104条は、事業場にこの法律またはこの法律に基づく命令に違反する事実があるとき、労働者が行政官庁または労働基準監督官に申告できるとしています。使用者は、申告をしたことを理由に、労働者を解雇したり、その他不利益な取扱いをしたりしてはなりません(同条第2項)。
労働安全衛生法第97条も同じ構造で、労働者などの作業従事者が都道府県労働局長、労働基準監督署長、労働基準監督官に申告して是正を求めることができるとし、事業者は申告を理由に解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと定めています。同条第3項は、注文者や機械等貸与者など契約の相手方が、申告を理由に取引の停止などの不利益な取扱いをすることも禁止しています。
賃金の支払の確保等に関する法律(賃確法)第14条にも、賃確法またはこれに基づく命令に違反する事実について、同様の申告と不利益取扱いの禁止があります。条文は労働者の国籍で扱いを分けていないため、特定技能外国人にも同じ規定が当てはまるのが基本です。
| 法律 | 申告できる内容 | 申告先 | 禁止される取扱い |
|---|---|---|---|
| 労働基準法第104条 | 労働基準法またはこれに基づく命令に違反する事実 | 行政官庁または労働基準監督官 | 解雇その他不利益な取扱い |
| 労働安全衛生法第97条 | 労働安全衛生法またはこれに基づく命令に違反する事実 | 都道府県労働局長、労働基準監督署長、労働基準監督官 | 解雇その他不利益な取扱い(注文者などによる取引停止なども禁止) |
| 賃確法第14条 | 賃確法またはこれに基づく命令に違反する事実 | 都道府県労働局長、労働基準監督署長、労働基準監督官 | 解雇その他不利益な取扱い |
公益通報者保護法:所定の条件を満たせば、社内・行政機関などへの通報も保護される
公益通報者保護法は、労働者が条件を満たす公益通報をしたことを理由とする解雇を無効とし、降格や減給などの不利益な取扱いも禁止しています。
同法の公益通報は、労働者または通報の日前1年以内に労働者であった人が、不正の目的でなく、勤め先や勤め先の役員・従業員などについて通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしている旨を通報することです。通報先は、勤め先または勤め先があらかじめ定めた者、処分や勧告をする権限を持つ行政機関、そして被害の発生や拡大を防ぐために必要と認められる者の3つに分かれます(第2条)。
通報対象事実は、同法の別表に掲げる法律に規定する罪の犯罪行為の事実や、過料の理由とされている事実などです。どの法律が別表に入るかは条文の別表で確認します。通報の内容が通報対象事実に当たるかは個別に判断されるため、企業側が当てはまりを断定せず、法務の専門家や所管の窓口に確認します。
労働者である公益通報者が、条件を満たす通報をしたことを理由とする解雇は無効です(第3条)。事業者は、降格、減給、退職金の不支給その他の不利益な取扱いをしてはならないとも定められています(第5条第1項)。通報の日前1年以内に使用していた退職者も、通報者に含まれます。
通報を受ける体制:担当者の指定と、通報者を特定させる情報の守秘
公益通報者保護法第11条は、事業者に通報を受けて調査し是正する担当者を定め、必要な体制を整える義務を課しています。
事業者は、公益通報を受けて調査し、是正に必要な措置をとる業務に従事する人(公益通報対応業務従事者)を定め、通報に適切に対応するための体制を整備しなければなりません(第11条第1項・第2項)。常時使用する労働者が300人以下の事業者は、「定めるように努める」「とるように努める」という努力義務です(同条第3項)。
公益通報対応業務従事者や、従事者であった人は、正当な理由なく、その業務で知った公益通報者を特定させる事項を漏らしてはなりません(第12条)。苦情や相談の窓口を設けるときは、受け付けた担当者以外に、通報した人が誰かが伝わらないよう、取扱いを決めておくと安心です。第12条の守秘義務は、公益通報対応業務従事者に課されたものです。
特定技能外国人が通報や相談をしやすいよう、窓口を母国語や分かりやすい日本語で案内する工夫は、法の義務ではなく運用上の工夫です。登録支援機関の相談・苦情対応の仕組みとは別に、受入れ企業自身の窓口をどう置くかを決めておくと、申告や通報の前に社内で解決する機会が増えます。
受入れ企業が避けたい対応:申告後の配置転換・契約不更新・退職の勧め
条文の「不利益な取扱い」は解雇に限りません。申告や通報のあとの扱いが、申告を理由にしたものと受け取られないよう、事前に点検します。
労働基準法第104条第2項などは、解雇のほかに「その他不利益な取扱い」を禁止しています。公益通報者保護法第5条は例として降格、減給、退職金の不支給を挙げています。申告や通報のあとに、配置転換、契約の不更新、退職の勧め、シフトの削減などを行うときは、申告を理由にしたものと受け取られないか、理由を記録して点検します。
個別の取扱いが不利益な取扱いに当たるかは、事情に応じて判断されます。当サイトは個別の事案への助言をしないため、迷う場合は、労働基準法などの申告は労働基準監督署、公益通報は所管の行政機関の窓口や弁護士などに確認してください。
申告や通報があった場合は、内容の事実確認と是正を先に進め、本人への連絡は担当者を限ります。特定技能外国人の相談先は、下の関連ガイドで整理しています。
- 申告や通報を理由に、解雇・降格・減給・配置転換などをしないことを、担当者に周知したか
- 契約の更新や配置の変更を決めるときの理由を、記録に残しているか
- 苦情・相談を受け付ける窓口と担当者を決めているか
- 通報した人が誰かを、担当者以外に伝えない取扱いを決めているか
- 常時使用する労働者が300人を超える場合、公益通報対応業務従事者を定めているか
- 判断に迷うとき、労働基準監督署などの窓口に確認したか
よくある質問
労働者が労働基準監督署に申告したら、解雇してよいですか?
申告をしたことを理由にした解雇その他不利益な取扱いは、労働基準法第104条第2項などで禁止されています。個別の事案は、労働基準監督署に確認してください。
外国人労働者も申告や公益通報の保護の対象ですか?
条文は労働者の国籍で扱いを分けていません。公益通報者保護法の労働者は、労働基準法第9条の労働者を指します。個別の判断は、所轄の窓口に確認してください。
小さな会社にも通報を受ける体制は必要ですか?
公益通報者保護法第11条は、常時使用する労働者が300人以下の事業者には、担当者を定め体制を整えることを努力義務としています。300人を超える事業者は義務です。
公益通報で保護されるのは現役の従業員だけですか?
通報の日前1年以内に労働者であった人も、公益通報者に含まれます(第2条第1項第1号)。
参照した公的一次資料
- e-Gov法令検索「労働基準法」第104条(監督機関に対する申告)(確認日:2026年10月18日、次回確認:2027年1月26日)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第97条(申告)(確認日:2026年10月18日、次回確認:2027年1月27日)
- e-Gov法令検索「賃金の支払の確保等に関する法律」第14条(労働者の申告)(確認日:2026年10月18日、次回確認:2027年1月28日)
- e-Gov法令検索「公益通報者保護法」(平成16年法律第122号)第2条・第3条・第5条・第11条・第12条(確認日:2026年10月18日、次回確認:2027年1月29日)