この記事の対象:特定技能外国人に固定残業代を含む賃金体系を設ける、または見直す受入れ企業の人事・労務担当者、賃金の見積を確認する登録支援機関の担当者

固定残業代とは:一定時間分の割増賃金を定額で払う仕組み

厚生労働省のQ&Aは、固定残業代を、一定時間分までの時間外労働、休日労働、深夜業に対する割増賃金として定額で支払われる賃金と説明しています。定額残業手当やみなし残業代と呼ばれることもあります。

支払い方には、基本給の中に組み込むタイプと、基本給とは別の手当として支払うタイプがあります。名称は問われず、中身が一定時間分の割増賃金に当たるかどうかで判断されます。

労働基準法第37条は、時間外・休日・深夜の労働に、法律の率以上で計算した割増賃金を支払うよう定めています。厚生労働省の裁判例の整理は、法の計算方法による額以上を払っていれば、定額で払う方法そのものが同条に違反するわけではないとしています。

割増賃金の率と時間外労働の上限は時間外労働と割増賃金のガイドで確認できます。

有効になる条件:通常の賃金と割増賃金の部分を判別できること

厚生労働省のQ&Aは、固定残業代を支払うときの条件を2つ挙げています。通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分を判別できること、そして、固定残業代の金額が法の方法で計算した割増賃金を下回るときは差額を支払うことです。

この考え方の根拠として示されているのが、医療法人康心会事件(最高裁平成29年7月7日判決)です。年俸に時間外の割増賃金が含まれるとの合意があっても、割増賃金に当たる部分が明らかでなく、金額を確定できない場合は、割増賃金が支払われたとはいえないとされました。

同じ趣旨の判断は、テックジャパン事件(最高裁平成24年3月8日判決)にもあります。月額41万円の全体が基本給とされ、その一部が時間外の割増賃金として区別されていなかったため、180時間以内の時間外労働の割増賃金も別に支払う義務があるとされました。

固定残業時間を超えて残業があった月は、その差額を別に払います。厚生労働省の整理は、定額で賄う残業時間数などを超えて残業などが行われた場合に、差額を別途支払う必要があるとしています。深夜や休日の割増賃金に当たる部分も、同じように区別が必要です。

固定残業代をめぐる主な裁判例(厚生労働省の裁判例の整理より)
事件判断のポイント
小里機材事件(最高裁昭和63年)基本給のうち残業代に当たる部分を明確に区別して合意し、法の計算額が上回るときは差額を支払う合意がある場合に限り、残業代の一部にできる
テックジャパン事件(最高裁平成24年)基本給の一部が割増賃金として区別されていないと、割増賃金が支払われたとはいえない
医療法人康心会事件(最高裁平成29年)割増賃金に当たる部分が明らかでない年俸の合意では、割増賃金を払ったとはいえない
日本ケミカル事件(最高裁平成30年)手当が残業の対価かは、契約書の記載のほか、説明の内容や実際の労働時間などを考慮して判断する

手当が残業代と認められるか:契約書の記載、説明、実際の労働時間

基本給とは別の手当を固定残業代として払う場合、その手当が時間外労働の対価と認められるかが問題になります。日本ケミカル事件の最高裁判決は、考慮する事情を示しました。

判決は、手当が時間外労働などの対価として払われるものとされているかを、雇用契約書などの記載内容のほか、使用者の労働者に対する手当や割増賃金についての説明の内容、労働者の実際の労働時間などの勤務状況を考慮して判断するとしています。

この事件では、雇用契約書、採用条件確認書、賃金規程のいずれにも、業務手当が時間外労働の対価として払われる旨が書かれていました。手当は約28時間分の割増賃金に相当し、実際の時間外労働の状況と大きくかい離していなかったことから、時間外労働の対価と認められています。

国際自動車事件(最高裁令和2年3月30日判決)では、割増金を払う一方で、その額を歩合給の算定から差し引く賃金体系について、実質は歩合給の一部を名目だけ割増金に置き換えたもので、通常の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分を判別できず、割増賃金を払ったことにならないとされました。判断では、手当の名称や算定方法だけでなく、賃金体系全体での位置付けにも留意するとされています。

明示:募集のとき3点、契約のとき判別できる書き方

厚生労働省のQ&Aは、労働者を募集するときに固定残業代を定額で払う場合、求職者に書面などで明示する事項を挙げています。職業安定法第5条の3と同法施行規則第4条の2に基づく扱いです。

明示する事項は、固定残業代の計算方法(固定残業時間の数と金額を明らかにするもの)、固定残業代を除いた基本給の額、固定残業時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金を追加で払うことの3点です。

採用して契約を結ぶときは、労働基準法第15条と同法施行規則第5条第1項により、賃金の決定、計算、支払の方法を書面などで明示します。Q&Aは、通常の賃金と固定残業代を判別できるよう、就業規則か労働条件通知書などで明確にしておく必要があるとしています。

最低賃金との比較では、所定労働時間を超える時間の労働に払う賃金は算入しない賃金とされています(最低賃金法施行規則第1条第2項)。固定残業代の部分を除いた基本給などで、最低賃金を下回らないか確認します。

最低賃金との比較の仕方は最低賃金の確認のガイドで確認できます。

  • 固定残業代を除いた基本給の額を、書面に別に書いた
  • 固定残業代の時間数と金額を、手当の名称と並べて書いた
  • 固定残業時間を超えた分は追加で払うと書いた
  • 金額が法の計算で割増賃金を下回らないか、所定労働時間と時給から確認した
  • 固定残業代を除いた基本給で最低賃金を下回っていないか確認した
  • 本人が理解できる言語で、手当の意味と超過分の扱いを説明した

よくある質問

固定残業代を払っていれば、残業代を別に払わなくてよいですか?

固定残業時間の範囲内の割増賃金には充てられますが、固定残業時間を超えた分は、差額を別に払う必要があります。通常の賃金と割増賃金に当たる部分を判別できることも条件です。

基本給に残業代を含めると書けば、有効になりますか?

含める旨を書くだけでは足りません。最高裁は、割増賃金に当たる部分が明らかでなく、通常の賃金の部分と判別できない場合は、割増賃金を払ったとはいえないとしています。

手当の名前を「残業手当」にすれば固定残業代と認められますか?

名称だけでは決まりません。契約書の記載、手当や割増賃金についての説明の内容、実際の労働時間などの勤務状況を考慮して、時間外労働の対価かどうかが判断されます。

求人や募集の段階で何を示す必要がありますか?

固定残業代を除いた基本給の額、固定残業代の時間数と金額が分かる計算方法、固定残業時間を超える分の割増賃金を追加で払うことの3点を、書面などで明示します。

参照した公的一次資料

試算に使う一次資料の一覧と確認状況を見る

次に確認すること

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