この記事の対象:特定技能外国人に渡航費や入国後の生活費を貸し付けて給与から返済してもらうか検討している受入れ企業の担当者、登録支援機関の担当者、給与計算の担当者
貸付そのものは差し支えなく、返済方法に労働法令の留意が求められる
出入国在留管理庁の運用要領別冊は、往路の航空券代を含む渡航準備費用や入国後の当面の生活費のために、特定技能所属機関等が1号特定技能外国人に貸し付けをすることは差し支えないとしています。
同じ箇所は、返済方法について、労働法令に違反することがないよう留意することが求められるとしています。つまり、貸すこと自体は認められていますが、貸したお金を給与から差し引いて返してもらう方法は、別に労働基準法の規律を受けます。
運用要領別冊は別の箇所で、渡航前の技能や日本語の教育費、渡航費用など送出しに必要な費用について、特定技能所属機関が送出し国の法令やガイドラインを踏まえ、全部または一部を負担することが推奨されるとも書いています。貸付にする前に、会社が負担する範囲を決めておくと、貸付の対象になる額を抑えられます。
送迎・渡航・帰国にかかる費用の扱いは空港送迎と帰国旅費のガイドで確認できます。
労働基準法第17条は、前借金その他の前貸の債権と賃金の相殺を禁じている
労働基準法第17条は、使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならないと定めています。
厚生労働省のQ&Aは、この規定について、前借金により身分的拘束を伴い労働が強制されるおそれがあることなどを防止するために定められたものだと説明しています。同じQ&Aは、貸付金が身分的拘束を伴わないことが明らかなものは、本条違反にならないと解されるとしています。
第17条に違反した場合は、第119条第1号により、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象です。貸付が身分的拘束を伴わないことが明らかといえない場合に、返済を賃金との相殺で行うと、第17条の問題になり得ます。
貸付の返済とは別に、遅刻・早退・欠勤で働かなかった分の賃金を引く計算は遅刻・早退・欠勤の賃金控除のガイドで確認できます。
| 条文 | 内容 | 罰則 |
|---|---|---|
| 第17条 | 前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない | 第119条第1号で6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 第16条 | 労働契約の不履行について違約金を定め、損害賠償額を予定する契約をしてはならない | 第119条第1号で同上 |
| 第24条第1項 | 賃金は通貨で、直接、全額を支払う(控除は法令の定めか書面の労使協定がある場合) | 第120条で30万円以下の罰金 |
身分的拘束を伴わない貸付かどうかは、貸付の条件で総合的に判断される
厚生労働省のQ&Aは、実際の判定は前貸しの条件その他の事情を総合的に判断して決めるとしています。
Q&Aは、住宅建設資金の融資などを例に、次の4点を挙げています。①貸付の原因が真に労働者の便宜のためで、労働者の申出に基づくこと。②貸付期間が必要を満たし得る範囲であること。
③貸付金額が、賃金や退職金などの充当で生活を脅かさずに返済できる程度であること。④返済前でも退職の自由が制約されていないこと。これらを備え、身分的拘束を伴わないことが明らかなものは、第17条に抵触しないと解されるとしています。
昭和22年9月13日発基第17号の通達は、弁済期の繰上げで明らかに身分的拘束を伴わないものは、労働することを条件とする債権に含まれないとしています。同じ通達は、労働者が使用者から人的信用に基づく貸借として金融を受ける必要がある場合には、賃金と相殺せず、労働者の自由意志に基づく弁済によるようにすることとも書いています。
- 貸付の理由が、本人の便宜(渡航準備・当面の生活費)のためになっている
- 貸付が本人の申出に基づいている
- 返済期間が必要を満たす範囲で、貸付金額が1か月の賃金などの充当で生活を脅かさない程度に返済できるものになっている
- 返済が終わる前でも、本人の退職の自由が制約されていない
給与から返済させる場合:一方的な相殺は不可、合意と労使協定の確認が要る
厚生労働省のQ&Aは、使用者が貸付金と賃金を一方的に相殺することはできないと解されるとしています。
理由は、賃金全額払の原則(労働基準法第24条第1項)です。Q&Aは、最高裁が、使用者が労働者に債権を持つときでも、一方的に賃金と相殺することは許されないとしている(日本勧業経済会事件)ことを挙げています。
一方、最高裁は、相殺が労働者の自由な意思に基づくと認め得る合理的な理由が客観的に存在する場合には、合意による相殺は第24条に違反しないとしています(日新製鋼事件)。Q&Aは、同意が自由な意思に基づくという認定は厳格かつ慎重に行われるため、同意が客観的に確認できるように合意の書面を取得しておくことが望まれるとしています。
Q&Aは、貸付金と賃金を相殺するには、賃金の一部控除に関する労使協定の締結が必要だとも書いています。控除が認められるのは、購買代金、社宅、寮その他の福利厚生施設の費用、社内預金、組合費など、事理明白なものについてだけとされています。賃金から控除する額は、民法や民事執行法の考え方から、賃金額の4分の1までにとどめることが求められる、という留意点もあります。
このガイドは制度の説明です。自社の貸付と返済の方法が適法かどうかは、労働基準監督署や社会保険労務士、弁護士などに確認してください。
賃金から控除できるものと労使協定の相手方は賃金支払の5原則と控除のガイドで確認できます。
よくある質問
特定技能外国人に渡航費を貸してもよいですか?
運用要領別冊は、往路の航空券代を含む渡航準備費用や入国後の当面の生活費のために、特定技能所属機関等が1号特定技能外国人に貸し付けをすることは差し支えないとしています。返済方法が労働法令に違反しないよう留意することが求められます。
貸した渡航費を毎月の給与から差し引いてもよいですか?
厚生労働省のQ&Aは、使用者が貸付金と賃金を一方的に相殺することはできないと解されるとしています。第17条の違反にならない貸付でも、賃金から差し引くには、本人の自由な意思に基づく合意と、賃金の一部控除に関する労使協定が必要とされています。
前借金の相殺を禁止する条文に罰則はありますか?
労働基準法第17条に違反すると、第119条第1号により6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象です。
貸付と保証金・違約金の禁止はどう違いますか?
保証金の徴収や違約金を定める契約は、特定技能では別に禁止されています。貸付そのものは差し支えないとされていますが、返済が終わるまで退職できないなど、退職の自由を縛る条件は、厚生労働省のQ&Aが挙げる貸付の条件に照らして問題になり得ます。
参照した公的一次資料
- 法務省「1号特定技能外国人支援に関する運用要領-1号特定技能外国人支援計画の基準について-」(確認日:2026年10月20日、次回確認:2026年11月22日)
- e-Gov法令検索「労働基準法」(昭和22年法律第49号)(確認日:2026年10月8日、次回確認:2027年1月8日)
- 厚生労働省「労働条件ポータル」Q&A「貸付金を賃金と相殺することは可能でしょうか?」(労基法第17条・第24条)(確認日:2026年10月21日、次回確認:2027年1月21日)
- 厚生労働省掲載「労働基準法の施行に関する件」(昭和22年9月13日発基第17号)(確認日:2026年10月21日、次回確認:2027年1月21日)