この記事の対象:介護分野で特定技能外国人を雇用する施設・事業所の管理者と人事・労務担当者
原則禁止:緊急やむを得ない場合を除く
介護保険の運営基準は、利用者または他の利用者の生命・身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他の行動を制限する行為を行ってはならないと定めています。
厚生労働省の令和5年度事業の報告書は、運営基準にある「身体的拘束等」と手引きの「身体拘束」を同じ意味で使っています。基準の規定は、介護老人福祉施設だけでなく、介護老人保健施設、介護医療院、短期入所生活介護、特定施設入居者生活介護、小規模多機能型居宅介護なども同様の内容と注記されています。
報告書は、この原則禁止が全サービスに置かれていると整理しています。訪問系サービス、通所系サービス、福祉用具貸与、特定福祉用具販売、居宅介護支援は、令和6年度の介護報酬改定で新設されたと記載されています。
身体拘束をするかどうかは、特定の職員の判断ではなく、施設・事業所として決めます。外国人職員を含む全ての職員が、禁止される行為と手続きを共通で理解しておく必要があります。
介護分野で働ける業務の範囲は、介護分野の特定技能のガイドで確認できます。
禁止される11の具体的行為
2000年度の介護保険制度施行に合わせて、身体拘束ゼロ作戦推進会議が示した11項目が、身体拘束の禁止の対象となる具体的な行為として挙げられています。
この記事で「手引き」と呼ぶのは、全日本病院協会が令和5年度の厚生労働省の補助事業で作成した手引き(2024年3月)です。法令ではなく解説資料なので、法的な基準は運営基準で確認してください。
手引きは、次の11の行為を、2000年度の介護保険制度施行時に身体拘束ゼロ作戦推進会議が示した禁止の項目として載せています。
手引きは、11項目を「身体拘束が目的で行うことが禁止されている」と説明しています。同じ道具でも、目的によって扱いが変わるという意味です。個別の道具や場面が身体拘束に当たるかは、施設・事業所の委員会や所在地の自治体に確認してください。
- 徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る
- 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る
- 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む
- 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る
- チューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける
- 車いすやいすからずり落ちたり立ち上がったりしないように、Y字型抑制帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける
- 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使用する
- 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる
- 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る
- 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
- 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する
緊急やむを得ない場合の3要件:切迫性・非代替性・一時性の全てを満たす
緊急やむを得ない場合として身体拘束を行えるのは、切迫性・非代替性・一時性の3つの要件を満たすときで、手引きは複数の職員で確認する必要があるとしています。
手引きは、3要件を次のように説明しています。下の表のとおりです。
非代替性の判断は、まず身体拘束を行わずに介護するあらゆる方法を検討したうえで、施設の判断として行います。複数の職員で確認する必要があり、拘束の方法自体も、利用者の状態に応じて最も制限の少ない方法で行わなければなりません。
一時性の判断では、本人の状態において必要とされる最も短い拘束時間を想定し、その想定期間内でも、身体拘束の解除を検討しなければなりません。
| 要件 | 内容 | 判断のときに確認すること |
|---|---|---|
| 切迫性 | 利用者本人または他の利用者等の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高い状態であること | 身体拘束が本人の日常生活に与える悪影響を考えても、なお必要な程度の危険があるか |
| 非代替性 | 身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと | 身体拘束をしない方法を全て検討したか。複数の職員で確認したか。最も制限の少ない方法か |
| 一時性 | 身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること | 必要な最も短い拘束時間を想定したか。想定期間内でも解除を検討するか |
手続きと記録:開始前の説明・解除・2年保存
緊急やむを得ない場合でも、守る手続きが4つあります。施設全体で判断する、開始前に本人や家族へ説明する、要件を満たさなくなったらすぐ解除する、記録を2年間保存する、の4つです。
手引きは、手続き上の留意点を4つ挙げています。1つ目は、身体拘束適正化委員会等で、緊急時の手続きをあらかじめ定めておくなど、施設全体の判断とすることです。2つ目は、身体拘束の開始前に本人や家族に説明することで、入居時に同意をとることは不適切とされています。
3つ目は、3要件に当たらなくなったらすぐに解除することです。想定した期間内でも解除を検討し、一時的に解除するなどして状況をこまめに観察します。4つ目は、身体拘束の記録を残し、2年間保存することです。
運営基準では、緊急やむを得ず身体拘束を行う場合に、その態様と時間、その際の本人の心身の状況、緊急やむを得なかった理由を記録しなければならないとされています。報告書は、基準省令の規定で記録は2年間保存と記載しています。
手引きは記録に含める内容として、3要件の全てを満たしていることの個別の状況記録、身体拘束をする場所と行為、期間、特記事項、開始と解除の予定、法人の検討者と説明者、利用者・家族等の同意の7項目を示しています。
- 身体拘束適正化委員会等で、緊急時の手続きをあらかじめ定めた
- 開始前に本人や家族へ説明する流れになっている(入居時の同意だけにしていない)
- 3要件に当たらなくなったらすぐ解除する流れになっている
- 記録の様式に、態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由の欄がある
- 記録を2年間保存する場所と担当を決めた
適正化の措置と減算:委員会は3月に1回以上
指定介護老人福祉施設は、委員会の3月に1回以上の開催、指針の整備、研修の定期実施を行わなければならず、満たさない場合は身体拘束廃止未実施減算の対象になります。
報告書が引く運営基準では、指定介護老人福祉施設は、身体的拘束等の適正化を図るため、対策を検討する委員会を3月に1回以上開催し、結果を介護職員その他の従業者に周知徹底すること、適正化のための指針を整備すること、従業者に適正化のための研修を定期的に実施することが必要です。介護老人保健施設などにも同様の内容と注記されています。
報告書は、施設系サービスと居住系サービスで、基準を満たさない場合に身体拘束廃止未実施減算として、所定単位数の100分の10に相当する単位数を減算すると記載しています。短期入所系サービスと多機能系サービスは令和6年度の改定で新設され、減算は所定単位数の100分の1に相当する単位数と記載されています。
報告書は、緊急やむを得ない場合の適正な手続きを経ていない身体的拘束等は、原則として高齢者虐待に該当する行為とされ、本人の居住地の自治体への相談・通報が必要としています。
厚生労働省の令和6年度調査では、養介護施設従事者等による虐待の発生要因で、職員の虐待や権利擁護、身体拘束に関する知識・意識の不足が75.9%で最も多くなっています。
通報の義務と通報後の流れは、高齢者虐待防止法のガイドで整理しています。
よくある質問
介護施設では、身体拘束は一切できませんか?
運営基準は、利用者等の生命・身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除いて禁止しています。緊急やむを得ない場合は、切迫性・非代替性・一時性の3要件を全て満たし、施設全体で判断して手続きを踏む必要があります。
入居時に家族から身体拘束の同意をとっておけば足りますか?
足りません。手引きは、身体拘束の開始前に本人や家族に説明することを求め、入居時に同意をとることは不適切としています。
身体拘束の記録はどのくらい保存しますか?
報告書は、基準省令の規定で記録は2年間保存と記載しています。態様と時間、心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録します。
手続きを経ない身体拘束は、虐待になりますか?
報告書は、緊急やむを得ない場合の適正な手続きを経ていない身体的拘束等は、原則として高齢者虐待に該当する行為とされ、居住地の自治体への相談・通報が必要としています。個別の事案は市町村または都道府県の担当窓口に確認してください。
参照した公的一次資料
- 厚生労働省 令和5年度老人保健健康増進等事業「介護施設・事業所等における身体拘束廃止・防止の取組推進に向けた調査研究事業」報告書(令和6年3月)(確認日:2026年10月27日、次回確認:2027年4月27日)
- 公益社団法人全日本病院協会「身体拘束ゼロの実践に向けて 介護施設・事業所における取組手引き」(2024年3月・令和5年度厚生労働省事業)(確認日:2026年10月27日、次回確認:2027年4月27日)
- 高齢者虐待防止法 第2条(定義等)(確認日:2026年10月27日、次回確認:2027年4月27日)
- 厚生労働省 令和6年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(報道発表)(確認日:2026年10月27日、次回確認:2027年4月27日)