この記事の対象:介護分野で特定技能外国人を雇用する施設・事業所の管理者と人事・労務担当者
対象:施設・事業所の職員と5つの行為
高齢者虐待防止法は、養介護施設または養介護事業の業務に従事する人が、利用する高齢者に行う5つの行為を高齢者虐待としています。
法律上の高齢者は65歳以上の人です。65歳未満でも、養介護施設に入所するなどしている障害者は、養介護施設従事者等による虐待の規定では高齢者とみなされます(第2条第1項・第6項)。
養介護施設は、老人福祉施設、有料老人ホーム、地域密着型介護老人福祉施設、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、地域包括支援センターです。養介護事業は、老人居宅生活支援事業と、介護保険法の居宅サービス事業、地域密着型サービス事業、居宅介護支援事業、介護予防サービス事業、地域密着型介護予防サービス事業、介護予防支援事業です。
条文は「業務に従事する者」と書いており、国籍や在留資格で区別していません。特定技能で働く職員も、日本人の職員と同じ養介護施設従事者等に当たります。
高齢者虐待とされる行為は、次の5つです(第2条第5項)。
訪問系サービスで働ける範囲は、特定技能の訪問系サービスのガイドで確認できます。
- 身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加えること
- 高齢者を衰弱させるような著しい減食または長時間の放置その他、養護すべき職務上の義務を著しく怠ること
- 著しい暴言、著しく拒絶的な対応その他、著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
- わいせつな行為をすること、またはさせること
- 財産を不当に処分することその他、不当に財産上の利益を得ること
設置者の措置:研修の実施と苦情処理の体制の整備その他の防止措置
養介護施設の設置者または養介護事業を行う者は、職員の研修の実施と、利用者とその家族からの苦情を処理する体制の整備などの防止措置を講ずるものとされています。
第20条は、設置者と事業者が、養介護施設従事者等の研修の実施、利用する高齢者とその家族からの苦情の処理の体制の整備その他の、高齢者虐待の防止等のための措置を講ずるものとすると定めています。条文に書かれているのは研修と苦情処理の体制ですが、「その他」の中身は条文では示されていません。
厚生労働省の令和6年度調査では、養介護施設従事者等による虐待の発生要因として、職員の虐待や権利擁護、身体拘束に関する知識・意識の不足が75.9%で最も多く、次いで職員の倫理観・理念の欠如が64.3%、職員のストレス・感情コントロールが62.5%でした。
外国人職員を含む職員に、虐待の定義と通報の義務を伝える機会を作るときは、日本語の理解度に合わせた説明が必要になります。具体的な研修内容や回数は条文に定めがないため、所在地の市町村や都道府県の担当窓口で確認してください。
利用者や家族からの苦情への対応は、相談・苦情への対応のガイドも参考になります。
通報:発見したら速やかに市町村へ
養介護施設従事者等は、自分が働く施設・事業所での虐待を受けたと思われる高齢者を発見したとき、速やかに市町村へ通報しなければなりません。
第21条第1項は、働いている養介護施設・事業所(同じ設置者や事業者が運営するものを含みます)で、職員による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した養介護施設従事者等に、市町村への通報を義務づけています。「虐待を確認した」ではなく「受けたと思われる」段階で通報する点が、条文の書き方です。
同条は、通報の義務の強さを発見した人によって分けています。下の表のとおりです。
通報は、秘密を守る義務に関する法律の規定(刑法の秘密漏示罪など)を理由に妨げられません。虚偽のものと過失によるものは除かれます。また、通報したことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いを受けないと定められています(同条第6項・第7項)。
通報を受けた市町村の職員と、報告を受けた都道府県の職員は、通報した人を特定させる事項を漏らしてはならないとされています(第23条)。
| 発見した人 | 場面 | 通報の位置づけ |
|---|---|---|
| その施設・事業所で働く養介護施設従事者等 | 自分が働く施設・事業所での虐待を受けたと思われる高齢者を発見 | 速やかに市町村へ通報しなければならない |
| 第1項に当たらない発見した人 | 高齢者の生命・身体に重大な危険が生じている | 速やかに市町村へ通報しなければならない |
| 発見した人 | 上記以外 | 速やかに市町村へ通報するよう努めなければならない |
| 虐待を受けた高齢者本人 | いつでも | 市町村に届け出ることができる |
通報後の流れ:市町村・都道府県の報告と公表
市町村は通報や届出を受けると、事業所の所在地の都道府県に報告し、市町村長または都道府県知事が老人福祉法や介護保険法の権限を適切に行使します。
市町村は、通報または届出を受けたとき、厚生労働省令で定めるところにより、虐待に関する事項を事業所の所在地の都道府県に報告しなければなりません(第22条第1項)。指定都市と中核市には、厚生労働省令で定める場合を除き、この報告の規定は適用されません(同条第2項)。
通報や報告を受けた市町村長または都道府県知事は、養介護施設・養介護事業の適正な運営を確保することで、虐待の防止と高齢者の保護を図るため、老人福祉法または介護保険法の規定による権限を適切に行使するものとされています(第24条)。
都道府県知事は毎年度、養介護施設従事者等による高齢者虐待の状況と、虐待があった場合にとった措置その他の厚生労働省令で定める事項を公表するものとされています(第25条)。
具体の調査や指導の内容は、事案ごとに市町村・都道府県が判断します。この記事で結果を確定することはできないので、個別の事案は所在地の市町村または都道府県の担当窓口に確認してください。
- 自分の職場で虐待を受けたと思われる高齢者を発見したら、速やかに市町村へ通報する義務があることを職員に伝えている
- 通報を理由に解雇その他の不利益な取扱いをしないことを、管理者と職員が共有している
- 研修の実施と苦情処理の体制を、どのように整えているか確認した
- 所在地の市町村の通報窓口を、職員が分かる場所に掲示または共有している
- 個別の事案は、市町村または都道府県の担当窓口に確認する
令和6年度の調査結果:相談・通報3,633件、虐待判断1,220件、いずれも過去最多
厚生労働省の令和6年度調査では、養介護施設従事者等による高齢者虐待の相談・通報が3,633件、虐待判断が1,220件で、どちらも過去最多で4年連続増加しました。
相談・通報件数は3,633件で、前年度より192件(5.6%)増えました。虐待判断件数は1,220件で、97件(8.6%)増えました。虐待等による死亡事例は5件(5人)でした。
相談・通報者の内訳は、当該施設職員が27.4%で最も多く、当該施設管理者等が18.2%、家族・親族が14.6%の順でした。
虐待の種別は、身体的虐待が51.1%で最も多く、心理的虐待27.7%、介護等放棄25.7%、経済的虐待10.3%、性的虐待3.4%の順です。施設・事業所の種別は、特別養護老人ホームが28.9%、有料老人ホーム(サービス付き高齢者向け住宅を含む)が28.4%、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)が14.8%の順でした。
厚生労働省の資料に外国人職員に限った集計は示されていません。この記事は、特定技能外国人の雇用に関係する管理者が、職員全員に共通する通報の義務を確認するために整理したものです。
よくある質問
特定技能で働く介護職員にも通報の義務がありますか?
あります。第21条第1項は「養介護施設従事者等」に義務を課しており、条文は国籍や在留資格で区別していません。自分が働く施設・事業所で虐待を受けたと思われる高齢者を発見したときは、速やかに市町村へ通報しなければなりません。
虐待かどうか確信が持てなくても通報してよいですか?
条文は「虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合」に通報するものと書いています。虚偽のものと過失によるものを除き、通報は秘密を守る義務の規定で妨げられず、通報を理由とする解雇などの不利益な取扱いも禁止されています。
通報した職員の名前は施設に伝わりますか?
市町村と都道府県の職員は、通報した人を特定させる事項を漏らしてはならないとされています(第23条)。個別の対応は、通報先の市町村の窓口に確認してください。
設置者は何をしなければなりませんか?
第20条は、研修の実施、利用者とその家族からの苦情を処理する体制の整備その他の防止措置を講ずるものと定めています。具体的な内容は条文に書かれていないため、所在地の市町村や都道府県に確認してください。
参照した公的一次資料
- 高齢者虐待防止法 第2条(定義等)(確認日:2026年10月27日、次回確認:2027年4月27日)
- 高齢者虐待防止法 第20条(養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止等のための措置)(確認日:2026年10月27日、次回確認:2027年4月27日)
- 高齢者虐待防止法 第21条(養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報等)(確認日:2026年10月27日、次回確認:2027年4月27日)
- 高齢者虐待防止法 第22条〜第25条(都道府県への報告・通報者の保護・措置・公表)(確認日:2026年10月27日、次回確認:2027年4月27日)
- 厚生労働省 令和6年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(報道発表)(確認日:2026年10月27日、次回確認:2027年4月27日)